Stability Matrix を利用した Automatic1111 と ComfyUI の導入・初期設定ガイド
このページでは、Stability Matrix を利用して Stable Diffusion の Web UI である Automatic1111 と ComfyUI をインストールし、画像生成を始めるための初期設定を行う手順を詳しく解説します。
はじめに:Stability Matrix とは?
Stability Matrix は、Stable Diffusion の Web UI(Automatic1111 や ComfyUI など)の導入を簡素化するツールです。通常、Python や Git の環境設定は複雑ですが、Stability Matrix を使えば必要な環境が自動的に構築されるため、初心者でも手軽に Stable Diffusion を始められます。
Stability Matrix のインストール手順とポータブルモード
Stability Matrix は Stable Diffusion の環境を一元管理します。特に「ポータブルモード」を利用することで、環境の管理と移動が容易になります。
1. Stability Matrix のインストール手順
- Stability Matrix のダウンロード:
- Google 検索で「Stability Matrix」と入力し、GitHub のStability Matrixページにアクセスします。
- お使いの OS に合わせたインストーラーをダウンロードします。
- Windowsの場合:https://github.com/LykosAI/StabilityMatrix/releases/latest/download/StabilityMatrix-win-x64.zip
- Macの場合:https://github.com/LykosAI/StabilityMatrix/releases/latest/download/StabilityMatrix-macos-arm64.dmg
- ファイルの解凍と起動:
- ダウンロードした ZIP ファイルを任意のフォルダに解凍します。(例:
C:\AI_Tools\
) - 解凍したフォルダ内の実行ファイル(
StabilityMatrix.exe
)をダブルクリックして起動します。 - Windows の警告画面が表示された場合: 「詳細情報」をクリックし、「実行」をクリックして進めます。
- ダウンロードした ZIP ファイルを任意のフォルダに解凍します。(例:
- ポータブルモードの有効化とインストール:
- 「ポータブルモード」(Portable Mode)にチェックを入れ、「続ける」をクリックします。
- ポータブルモードのメリット: Stability Matrix、Automatic1111、ComfyUI、および関連するモデルデータや設定ファイルがすべて一つのフォルダ内にまとめられるため、ファイルの管理が容易になり、後で環境全体を別の場所に移動させる際に便利です。
- インストールしたいパッケージ(例: ComfyUI または Automatic1111)を選択し、「続ける」をクリックします。
- 画像生成モデルのインストールを促される場合がありますが、モデルは後で個別にダウンロードできるため、ここでは「閉じる」で問題ありません。
- 「ポータブルモード」(Portable Mode)にチェックを入れ、「続ける」をクリックします。
- インストール完了:
- インストールが始まるので、完了するまで待ちます。完了すると、Stability Matrix の画面に選択した Web UI の起動ボタンが表示されます。
Automatic1111 のインストールと初期設定
Stability Matrix の画面が開いたら、Stable Diffusion の各種 Web UI が表示されます。 Automatic1111 をインストールします。
Automatic1111 のインストール
- リストから「Stable Diffusion WEB UI Automatic1111」を選択し、「インストール」をクリックします。
- 必要なパッケージ(Python、Git など)が自動的にダウンロード・構築されます。完了するまで時間がかかる場合があります。
- インストールが完了すると、Automatic1111 がパッケージメニューに表示されます。「Launch」ボタンをクリックして起動します。
モデル(チェックポイント)のダウンロードと設定
画像生成には「モデル」(チェックポイント)が必要です。
- Stability Matrix の画面で「Model Browser」を開き、「Model Type」から「Checkpoint」を選択します。
- 好きなモデルを選んで「Import」をクリックし、ダウンロードします。
- Automatic1111 の UI 左上にある「Stable Diffusion checkpoint」のプルダウンから、使用したいモデルを選択します。
- Stable Diffusion モデルのファイル形式:.ckpt と .safetensors
Stable Diffusion のモデルや VAE(Variational AutoEncoder)には、主に.ckpt
と.safetensors
という 2 つのファイル形式があります。 - ckpt形式
.ckpt
形式は、かつて広く使われていた古い形式で、AI モデルのデータだけでなく、Python のコードも保存できる形式で悪意のあるコード(ウイルスなど)が埋め込まれている場合、そのファイルを読み込んだ際に、PC が感染してしまうリスクがあります。 - safetensors 形式
.safetensors
は、.ckpt
のセキュリティリスクを解消するために開発された、新しい形式です。
データのみを保存:.safetensors
は、モデルのデータだけを安全に保存し、コードの実行を許可しません。
安全性が高い: ウイルスなどの不正なコードが埋め込まれる心配がないため、安心して使用できます。
Stable Diffusion を始める方には、.safetensors
形式を強く推奨します。
VAE、Clip Skip、EasyNegative、ADetailer の設定
Stable Diffusion で高画質な画像を生成するためには、以下の初期設定が推奨されます。
- VAE(Variational AutoEncoder): 画像の品質を向上させます。Stability Matrix の「Model Browser」で VAE をダウンロードし、Automatic1111 の「Settings」タブの「sd_vae」で設定します。
- VAE(Variational AutoEncoder)は、Stable Diffusion で生成される画像の色味、コントラスト、そして全体的な鮮明さに大きな影響を与える重要な要素です。
- Stability Matrix の「Model Browser」でダウンロードすべき VAE は、使用している画像生成モデル(チェックポイント)の種類によって異なります。
- SD1.5 系モデルを使用している場合:
- 推奨 VAE:
vae-ft-mse-840000-ema-pruned
- これは Stable Diffusion 1.5 モデルに最も一般的に使用される VAE で、Stable Diffusion 関連の多くのサイトで推奨されています。
- Stability Matrix に推奨 VAE が表示されない場合のダウンロード手順
Hugging Face にアクセス:
ウェブブラウザで以下の URL にアクセスします。(Hugging Face は AI モデルの共有プラットフォームです。)
URL:https://huggingface.co/stabilityai/sd-vae-ft-mse-original/tree/main
ファイルのダウンロード:
ページ内で、ファイル名が「vae-ft-mse-840000-ema-pruned.safetensors
」となっているファイルを探します。
ファイル名の右側にあるダウンロードアイコン(↓)をクリックして、ファイルをダウンロードします。
注意:.ckpt
形式ではなく、.safetensors
形式であることを必ず確認してください。
- Stability Matrix に推奨 VAE が表示されない場合のダウンロード手順
-
- ダウンロードした VAE の配置
ダウンロードした VAE ファイルを、Stability Matrix が管理する Automatic1111 または ComfyUI の VAE フォルダに配置します。
Stability Matrix の VAE フォルダ:
Stability Matrix をインストールしたフォルダ(「ポータブルモード」で指定した場所)内にある、data\models\VAE
フォルダにダウンロードしたファイルを移動します。 - Stability Matrix を通じて環境をインストールした場合
C:\AI_Tools\StabilityMatrix\data\models\VAE
のようなパスになります。
- ダウンロードした VAE の配置
-
- Automatic1111 での VAE 設定
ファイルを配置したら、Automatic1111 を再起動し、以下の手順で VAE を設定します。
Automatic1111 の UI 右上の「Settings」タブを開きます。
「Stable Diffusion」セクションの「VAE」にある「sd_vae」のプルダウンメニューから、先ほど追加した VAE「vae-ft-mse-840000-ema-pruned.safetensors
」 を選択します。
設定(apply settings)を適用し、UI を再読み込みします。
- Automatic1111 での VAE 設定
- 推奨 VAE:
- SDXL モデルを使用している場合:
- 推奨 VAE:
sdxl_vae
- SDXL モデルは SD1.5 とは異なる構造を持っているため、SDXL 専用の VAE を使用する必要があります。
- インストール手順は先程と同様です
- 推奨 VAE:
- Clip Skip: LoRA モデルを使用する際に推奨される設定です。「Settings」タブの「Quick setting list」に「Clip stop at last layers」を追加し、「2」に設定します。
- LoRAを使用していない場合、Clip Skip 2が最適かどうかは、使用しているベースモデル(チェックポイント)によって異なります。
- アニメ系・イラスト系モデル: 多くのケースでClip Skip 2が推奨される傾向があります。
- リアル系モデル: リアルな写真を生成するモデルでは、Clip Skip 1の方が自然な結果になることが多いです。ただし、一部のリアル系LoRAはClip Skip 2で学習されている場合もあります。
- LoRAを使用していない場合、Clip Skip 2が最適かどうかは、使用しているベースモデル(チェックポイント)によって異なります。
- EasyNegative: ネガティブプロンプトを簡略化するファイルです。Hugging Face などからダウンロードし、Stability Matrix で管理されている Automatic1111 の「embeddings」フォルダに移動します。
- EasyNegative V2 には、画質の低下や人物の奇形など、画像生成でよく発生する問題を防ぐためのネガティブな要素が多数含まれています。
- ネガティブプロンプト欄に
EasyNegativeV2
と入力するだけで、ファイル内に定義されたすべてのネガティブな要素が自動的に適用されます。これにより、毎回ネガティブなキーワードを長く書く手間が省け、より高品質な画像を簡単に生成できるようになります。
- EasyNegative V2 のダウンロードと設定
- EasyNegative V2 は、Hugging Face などのAIモデル共有サイトからダウンロードできます。
- 以下のURLから、
EasyNegativeV2.safetensors
ファイルをダウンロードします。 - ダウンロードURL: https://huggingface.co/gsdf/Counterfeit-V3.0/tree/main/embedding
- 注意点: 必ず
.safetensors
形式のファイルを選んでください。.safetensors
は、セキュリティ面で安全なファイル形式です。
- ファイルの配置
- ダウンロードした
EasyNegativeV2.safetensors
ファイルを、使用している Stable Diffusion web UI のembeddings
フォルダに移動します。 - フォルダのパス:
[Stable Diffusion web UIのフォルダ]/embeddings/
- ダウンロードした
- Automatic1111 での設定
- ファイルを
embeddings
フォルダに配置したら、Automatic1111 を再起動します。 - UI 右側にある「Textual Inversion」タブ(または「Embeddings」タブ)をクリックします。
- リストに「EasyNegativeV2」が表示されるので、それをクリックします。
- ネガティブプロンプト入力欄に
EasyNegativeV2
というトリガーワードが追加され、設定が完了します。
- ファイルを
- ADetailer(拡張機能): 顔や手の崩れを修正します。Automatic1111 の「Extensions」タブからインストールします。
- ADetailer は、Stable Diffusion で生成した画像の顔や手などの細部が崩れる現象を自動的に修正するための、非常に強力な拡張機能です。
特に、画像全体はきれいに生成されても、顔や指といったディテール部分がおかしくなってしまう「破綻」を防ぎ、高画質な画像を生成する上で欠かせないツールです。
- ADetailer は、Stable Diffusion で生成した画像の顔や手などの細部が崩れる現象を自動的に修正するための、非常に強力な拡張機能です。
- Automatic1111 への ADetailer インストール手順
- Automatic1111 に ADetailer をインストールするには、「Extensions」タブから行います。
- 「Extensions」タブを開く:
Automatic1111 の UI 上部にある「Extensions」タブをクリックします。 - 「Available」タブからロード:
「Available」タブに移動し、「Load from」ボタンをクリックします。これにより、利用可能な拡張機能のリストが読み込まれます。 - ADetailer を検索してインストール:
検索窓に「ADetailer」と入力します。
表示された「ADetailer」を探し、右側の「Install」ボタンをクリックします。 - UI の再起動:
インストールが完了したら、「Installed」タブに戻ります。
拡張機能リストの下にある「Apply and restart UI」ボタンをクリックして、Automatic1111 の UI を再起動します。
- ADetailer の使い方
- UI を再起動すると、Automatic1111 の画面下部に ADetailer の設定項目が表示されます。
ADetailer の有効化:
ADetailer の項目を展開し、「Enable ADetailer」にチェックを入れます。 - モデルの選択:
使用する ADetailer モデルを選択します。
顔の修正にはadetailer_face_yolo8n.pt
やadetailer_face_yolo8s.pt
など、手の修正にはadetailer_hand_yolo8n.pt
などが推奨されます。 - ADetailer を有効にすることで、生成される画像の品質が大幅に向上し、顔や手の破綻を気にすることなく画像を生成できます。
- UI を再起動すると、Automatic1111 の画面下部に ADetailer の設定項目が表示されます。
動作確認プロンプト
Cinematic Photo of a beautiful japanese fashion model bokeh train
Negative prompt: (worst_quality:2.0) (MajicNegative_V2:0.8) BadNegAnatomyV1-neg bradhands cartoon, cgi, render, illustration, painting, drawing
Steps: 20, CFG scale: 5, Sampler: DPM++ 2M SDE Karras, Seed: 4150273653, VAE: vae-ft-mse-840000-ema-pruned.safetensors, Size: 512×768, Model: brav7final.fp16, Version: v1.6.0, VAE hash: 235745af8d, Model hash: 1a17bcd93d
ComfyUI のインストールと初期設定
ComfyUI は、Automatic1111 とは異なる ノードベース の UI を持つ Stable Diffusion の Web UI です。高度な画像生成プロセスを視覚的に構築できます。
ComfyUI のインストール(Stability Matrix 経由)
- Stability Matrix のメイン画面で「ComfyUI」を選択し、「インストール」をクリックします。
- インストール完了後、「Launch」ボタンで起動します。
ComfyUI の初期設定とモデルの配置
ComfyUI はノードベースの UI であるため、Automatic1111 とは操作感が異なりますが、基本的なモデルの配置や設定は簡単です。
- UI 画面の確認: ComfyUI を起動すると、デフォルトのワークフローが表示されます。
- モデルの配置: Stability Matrix を使用している場合、Automatic1111 と ComfyUI はモデルを共有できます。ComfyUI の UI 上の「Load Checkpoint」ノードで、利用したいモデルを選択します。
- VAE の設定: 「Load VAE」ノードのプルダウンから VAE を選択します。
ComfyUI Manager の導入(推奨)
ComfyUI Manager を導入すると、拡張機能やカスタムノードを簡単に管理できます。
- Stability Matrix で ComfyUI のフォルダを開き、「custom_nodes」フォルダにアクセスします。
- ComfyUI Manager の GitHub リポジトリ(https://github.com/ltdrdata/ComfyUI-Manager)からファイルをダウンロードするか、
git clone
でリポジトリをcustom_nodes
フォルダ内にクローンします。 - ComfyUI を再起動すると、UI に「Manager」ボタンが表示されます。
フォルダ移動とクラウドサービスについて
Automatic1111 や ComfyUI の環境を別の場所や別の PC に移動できるかどうかは、インストール方法によって異なります。
- Stability Matrix のポータブルモード: このモードでインストールした場合、関連ファイルが一つのフォルダに集約されているため、同じ PC 内の別の場所への移動は比較的容易です。
- 別の PC への移動: ポータブルモードであっても、完全に別の PC へ移動する場合、その PC に必要な外部依存関係(Python、Git、CUDA Toolkitなど)がインストールされている必要があります。
- Google Drive やクラウドサービス: Google Colab や ConoHa AI Canvas などのクラウドサービスを利用する場合、環境とデータはクラウド上に保存されます。これにより、ローカル PC のストレージを節約でき、インターネット環境があればどの PC からでも同じ環境にアクセスできます。
関連情報と URL
- Stability Matrix GitHub: Stable Diffusion 環境の管理ツールに関する情報が掲載されています。https://github.com/StabilityMatrix/StabilityMatrix
- Automatic1111 GitHub: Automatic1111 の基本的な情報が確認できます。https://github.com/AUTOMATIC1111/stable-diffusion-webui
- ConoHa AI Canvas: クラウドベースで ComfyUI を利用するサービスの一例です。https://www.conoha.jp/aic