はじめての道具箱 — AI への頼み方
— 方法ではなく、困りごとを渡す —
方法を頼む前に、「いまどうしていて、何が不便で、どうなればよいか」を伝えると、AI が自分では思いつかなかった別の案も出してくれます。つい「この機能を付けて」と方法だけを頼むと、頼んだ通りに出来上がっても、困りごとが残っていることがあるからです。
この記事を読むとできること
想定している使い方
ブラウザで開くチャット型の AI(Gemini や ChatGPT など)にコード(Mac への指示を書いた文章)を書いてもらい、 それを自分の Mac に保存して動かす使い方です。この記事の操作や画面の説明は、すべて Mac を前提にしています。
読む目安:約9分 ・ 道具箱の項目 E1(AI への頼み方)・ 図3枚
「何を作るか」は、自分が思いついた解決の方法です。「何に困っているか」は、その方法を思いついた元の理由です。方法だけを渡すと、思いついた方法が最善でないとき、困りごとが残ります。理由まで渡せば、AI は別の方法も出せます。
たとえば、料理の動画を何百本もためた一覧で、見たい動画がなかなか見つからないとします。ここで頭に浮かぶのは、「検索ボックスを付けてほしい」のような方法です。そう頼めば、AI は検索ボックスを付けたコードを書いてくれます。
ただし、本当の困りごとは「検索ボックスが無いこと」ではありません。「見たい動画に着くまでが遠いこと」です。検索ボックスは、そのための方法のひとつにすぎません。言葉が思い出せない動画は、検索ボックスでは探せません。分類を選んで絞るほうが近道かもしれません。
AI は、頼まれた方法をそのまま形にすることが多いものです。頼んだ側が思いついていない方法は、聞かなければ出てきません。そこで、方法を決めて頼む前に、「何に困っているか」を先に伝えます。困りごとが伝われば、AI は、あなたが思いついていなかった方法も含めて、案を並べられます。
図の見方:上の段は、思いついた方法だけを頼んだ場合です。言われた通りに作られますが、言葉が分からない動画は探せないままで、困りごとが残ります。下の段は、困りごとを先に伝えた場合です。AI がいくつか方法を出すので、長所と短所を比べて、自分で選べます。
困りごとは、むずかしく言い換える必要はありません。いまどうしているか、何が不便か、どうなればよいかの3つを、ふだんの言葉で書けば足ります。
1つ目の「いまどうしているか」は、AI が場面を思い浮かべるための材料です。たとえば「動画の一覧を上から眺めて、分類を見て探している」と書きます。2つ目の「何が不便か」が、困りごと本体です。「本数が増えて、見たい動画が見つからない」のように、起きていることをそのまま書きます。3つ目の「どうなればよいか」は、できあがりの目標です。「探す手間を減らしたい」のように書きます。目標が分かれば、AI は案の良し悪しを測れます。
自分に案があるときは、書いても構いません。ただし、「決定」ではなく「案」として添えるのがコツです。「私は検索ボックスが良いと思っています」と書けば、AI はその案を評価したうえで、ほかの案も出せます。
筆者の体験メモ
筆者は、自作の動画の管理道具に加えた改良の「意図」(なぜ加えたか)を、あとから文章にまとめています。そこに残っているのは、機能の名前よりも、その機能で何を解決したかったか、という困りごとです。たとえば次の3つです。
映像を別の窓に出す作り(動画を小さな別ウィンドウで再生する機能)については、「ユーザーの操作手間を減らしたかった」と書いています。なお、ここに書いたのは機能を足した理由であり、AI に同じ言葉で頼んだという意味ではありません。
同じ困りごとでも、解決の方法は1つではありません。「見たい動画が見つからない」なら、言葉で探す検索ボックス、分類を選んで絞る絞り込み、新しい順や名前順の並べ替えなど、いくつもあります。それぞれ、向いている場面が違います。
困りごとを伝えて、「案を3つまで、それぞれの長所と短所つきで教えて」と頼むと、AI はこうした案を比べやすい形で並べてくれます。ここで決めるのは、あなたです。どの案がいまの自分の使い方に合うかは、使う本人にしか分からないからです。
AI は案に「案A」「案B」(または「案1」「案2」)のような記号や番号を付けて並べることが多いものです。案を選んだら、その記号を使って「案Bでお願いします」と伝え、コードを書いてもらいます。案を聞く段階では、「まだコードは書かないで」と添えておくと、長いコードに流れず、比べることに集中できます。
図の見方:いちばん上の箱が、あなたの困りごとです。その下の点線の枠に、AI が出す3つの案が並びます。いちばん下の箱は、案を比べて1つに決める場面で、決めるのは AI ではなくあなたです。
起きていることから探してください。
| 起きていること | 原因 | どうするか |
|---|---|---|
| 頼んだ通りに出来上がったのに、困りごとが解決していない | 思いついた方法だけを頼んで、何に困っているかは伝えていない | 「AI への伝え方」の④で、困りごとを足して頼み直します。「この機能で解決したいのは、○○です」と1文を添えます |
| 思っていたものと違う機能が出てきた | どう使っているか、どうなればよいかが書かれておらず、AI が推測で補った | 「いまどうしているか」と「どうなればよいか」を足します。3つの材料がそろえば、ずれは小さくなります |
| 案がたくさん出て、選べない | 案の数や、選ぶときの基準を伝えていない | 「案は3つまで。作りやすい順に並べて」と頼みます。そのうえで、1つだけ選んで作ってもらいます |
| 自分の案を伝えたら、ほかの案が出てこない | 自分の案を「決定」として書いたので、AI がそれに従った | 「私の案は○○ですが、本当の困りごとは△△です。ほかに良い方法があれば比べて」と、案として頼み直します |
| 困りごとを書いたら長くなり、AI の答えが散らかった | 複数の困りごとを1回の頼みに詰め込んだ | 困りごとを1つに絞って頼みます。ほかの困りごとは、1つ解決してから、次に頼みます |
※ この道具箱は対話型コーディング(ブラウザの画面でチャットの AI と文章をやりとりして、コードを書いてもらうやり方)の前提です。 チャットの AI はあなたの Mac を見られないので、頼むのは「コードを書いて」、困ったら出た文字を貼って伝えます。 コツは、方法の前に、いまどうしていて、何が不便で、どうなればよいかを書くことです。 下の文は、そのまま写すためのものではなく、言い方の見本です。
① 困りごとから頼むとき(案を聞く)
「料理の動画の一覧が長くなって、見たい動画を探すのに時間がかかっています。いまは一覧を上から眺めて、分類を見て探しています。探す手間を減らしたいです。解決の方法は決めていません。案を3つまで、それぞれの長所と短所つきで教えて。まだコードは書かないで」
② 案を選んで頼むとき
「案Bの、分類を選んで絞り込む形でお願いします。理由は、動画の名前を覚えていないことが多いからです。この案で、コードを全部書いて」
③ 自分に案があるとき
「私は、検索ボックスを付けるのが良いと思っています。ただ、本当の困りごとは、見たい動画に着くまでが遠いことです。この案で足りるか、ほかに良い方法があるかを、比べて教えて」
④ 頼んだ通りなのに困りごとが残るとき
「頼んだ通りに作ってもらいましたが、まだ困っています。いまはこう使っています:(ここに書く)。ここで困ります:(ここに書く)。どうなればよいかは:(ここに書く)。何が足りないのか、別の方法も含めて教えて」
機能が付いたかどうかではなく、困りごとが減ったかどうかで確かめます。次の3つを順に見ます。
頼む前に、困りごとを1文で言えるか確かめる。「いま○○で困っている」と、機能の名前を使わずに言えれば、準備ができています。機能の名前でしか言えないときは、「それがあると何が楽になるのか」を自分に問い直します。
出てきた案を、困りごとと突き合わせる。それぞれの案で、自分の困りごとがどう減るのかを、自分の言葉で言ってみます。言えない案は、まだ選べません。AI に「この案で、私の困りごとはどう減りますか」と聞き返してかまいません。
困っていた場面で、実際に使ってみる。たとえば、見たい動画を探す場面です。目当てに着くまでの手間が、頼む前より減っていれば成功です。減っていなければ、「AI への伝え方」の④で、そのまま伝えて頼み直します。