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仕事関係 — コンセプト記事

システムが止まったとき、各部門は何をするか

— 復旧を待つ間に受け持つ4つの仕事 —

ランサムウェア(データを使えなくして金銭を要求する攻撃)の被害では、すべてが元に戻るまで数週間から数か月かかることがあります。その間、各部門は待つだけでよいのでしょうか。 答えを先に言うと、各部門は「被害を広げない」「手作業で事業を回す」「取引先をつなぎ止める」「復旧したものを確かめる」の4つを受け持ちます。

この記事を読むとできること

  • システムが止まったときに、全従業員が守る行動が分かります
  • 製造・調達・物流・営業・開発・経理・人事総務の各部門が、停止の直後・停止中・復旧期にすることが分かります
  • 有事に読まれる「部門別カード」の作り方が分かります

想定している使い方

情報セキュリティ委員会の事務局が各部門に行動の基準を示すときや、部門長が自部門の備えを考えるときのたたき台にすることを想定しています。 自社に無い部門は読み飛ばし、自社に合わせて書き換えてください。

  1. なぜ復旧を待つだけではいけないのか
  2. 全従業員に共通する行動
  3. 部門ごとにすること
  4. 部門別カードの作り方
  5. 関連する項目

読む目安:約8分 ・ 仕事関係のコンセプト記事 ・ 図2枚

なぜ復旧を待つだけではいけないのか

システムが止まると、復旧は情報システム部門の仕事だと考えがちです。ところが、技術的な復旧が終わるまでの数週間、受注も出荷も請求も止まったままでは、取引先はほかの会社に注文を移します。復旧を待つだけの会社は、その間に取引先を失います。

システムが止まっている間こそ、各部門の出番です。被害を広げない行動、紙や電話での手作業、取引先への説明、そして復旧したシステムのデータが正しいかの確認。どれも、業務を知っている部門にしかできません。

✕ 復旧を待つだけだと 復旧は情報システム 部門に任せて待つ 受注も出荷も 止まったまま 取引先が 離れていく ○ 各部門が4つの仕事を受け持つと 広げない・手で回す・ つなぐ・確かめる 紙と電話で 事業が回る 取引先を つなぎ止められる 技術の復旧と、事業の継続は別の仕事。後者は各部門が受け持つ。

図の見方:上の段は、復旧を情報システム部門に任せて待つ場合です。受注も出荷も止まったままになり、取引先が離れていきます。下の段は、各部門が「広げない・手で回す・つなぐ・確かめる」の4つを受け持つ場合です。紙と電話で事業が回り、取引先をつなぎ止められます。

全従業員に共通する行動

部門にかかわらず、全員が同じ行動をとれるようにしておきます。短く、紙にして配れる形にします。

部門の動きは、時間で3つに分けて考えます。下の図は、どの部門にも共通する流れです。

図2 システムが止まってからの3つの時期

停止の直後(24時間まで) 被害を広げない。つながっている箇所を切り離し、 部門の状況を対策本部へ報告する 停止中(数日〜数週間) 紙と電話で、優先する業務から手作業で回す。 取引先には承認済みの文面で説明する 復旧期 紙で回した分をシステムに入れ直し、 戻ったデータが正しいかを業務の目で確かめる いちばん長いのは真ん中の「停止中」。ここを紙で備える。

図の見方:上から順に、停止の直後・停止中・復旧期の3つの時期です。停止の直後は被害を広げずに状況を報告し、停止中は紙と電話で優先する業務を回し、復旧期は紙の記録を入れ直してデータを確かめます。いちばん長く続くのは真ん中の停止中なので、ここを紙で備えておきます。

部門ごとにすること

製造・営業・開発をはじめ、主な部門ごとに、停止の直後・停止中・復旧期にすることを並べます。太字の項目は、見落とされやすく、後で大きな問題になりやすいものです。

製造(工場)

直後:生産設備の制御の仕組みが、社内のネットワークとつながっている箇所を切り離します。稼働を続けるか、安全に止めるかを工場長が決め、対策本部(事故対応の指揮をとる組織)に報告します。

停止中:紙の生産指示で、優先する品目から生産します。在庫と仕掛品(作りかけの製品)は現物で数えます。検査の結果やロット(同じ条件で作った製品のまとまり)などの品質の記録を、紙で必ず残します。復旧したあと、出荷してよいかの判定と、製品の履歴をたどることに使うためです。

復旧期:紙の記録をシステムに入れ直し、在庫を現物と突き合わせます。

調達・購買

直後:主な仕入先に、自社からのメールを信用しないよう電話で伝えます。攻撃者が自社を装って、仕入先に偽の指示を送ることがあるためです。

停止中:発注は電話・FAX(電話回線で紙の書類を送る機器)・紙で行い、発注の台帳を手書きでつけます。納期は仕入先と調整します。

復旧期:発注の残りと入荷を突き合わせます。

物流・出荷

直後:出荷の予定を紙で確かめます。前日の出荷予定表を、ふだんから印刷して保管しておくと助かります。

停止中:手書きの納品書で出荷し、運送会社とは電話で手配します。

復旧期:出荷の実績を入れ直し、請求の漏れが無いかを確かめます。

営業

直後:主な顧客の紙の一覧で、誰がどの顧客を受け持つかを確かめます。顧客への説明は、広報が承認した文面を待ちます。

停止中:承認済みの文面で、状況と納期を伝えます。受注は紙で記録します。「自社のデータは漏れたか」という問いには個人で答えず、問い合わせの窓口につなぎます。

復旧期:紙の受注を入れ直し、影響を受けた顧客への説明とお詫びを計画します。

開発

直後:開発の環境と、設計のデータの置き場所を切り離します。試験中の設備も確かめます。

停止中:盗まれた可能性のある技術の情報(図面・プログラム・顧客から預かった仕様)を特定し、法務に伝えます。顧客との秘密保持の契約や、輸出の規制の確認に使います。自社の製品に組み込むソフトウェアが、書き換えられていないかも確かめます。書き換えられたまま出荷すると、被害が顧客にまで広がります。

復旧期:書き換えが無いことを確かめてから、開発を再開します。

経理

直後:予定している支払いをいったん止め、振込先を確かめます。

停止中:給与と主な支払いを優先して、手作業で行います(ネットバンキングは感染していない端末から)。決算や開示の期限への影響を、上場会社なら IR(投資家向けの広報)と確かめます。

復旧期:仕訳(取引を帳簿に記録する形)を入れ直し、請求と入金を突き合わせます。

人事・総務

直後:社内のメール以外で、従業員に連絡する手段を立ち上げます。

停止中:勤怠を紙で管理します。従業員の情報が漏れた場合は、従業員向けの説明と問い合わせの窓口を用意します。代わりの端末や場所を手配します。

復旧期:勤怠を入れ直し、対応で生じた長時間の労働を管理します。

復旧期には、すべての部門に共通する仕事があります。情報システム部門が戻したシステムを実際に使ってみて、データが正しいかを確かめることです。業務の中身を知っているのは各部門なので、この確認は情報システム部門だけではできません。

部門別カードの作り方

分厚いマニュアルは、有事には読まれません。各部門で A4 の1〜2枚の「システム停止時カード」を作り、紙で保管します。電子のファイルだけだと、システムと一緒に読めなくなります。カードに書く項目は、営業部門を例にすると次のとおりです。

項目中身の例(営業部門)
止められない業務主な顧客への納期の回答と受注
何日まで止められるか受注は1日、見積もりは1週間
代わりの手段紙の受注票(様式を印刷して保管)、会社が貸す携帯電話
必要な紙の資料主な顧客と担当者の連絡先の一覧、商品の番号と単価の表(毎月印刷して入れ替える)
連絡先部長・代わりの人・事故の窓口・問い合わせの窓口の携帯電話の番号
復旧後にやること紙の受注票を入れ直し、顧客に復旧を連絡する

作り方は、まず事務局がこの様式を各部門に配り、部門長に書いてもらいます。次に、「何日まで止められるか」を、情報システム部門が見込む復旧の日数と突き合わせます。間に合わない業務は、代わりの手段を厚くするか、復旧の優先順位を上げます。できあがったら、机上訓練(会議室で事故の想定を読み上げ、動きを確かめる訓練)の場で、部門長がカードのとおりに動けるかを確かめます。最後に、年に1回、連絡先と紙の資料を新しくします。

地震などに備えた事業継続計画(BCP)が既にあれば、別のマニュアルを作らず、そこに「システムの停止」の章を足すのが合理的です。地震と違って、建物や人は無事なのにデータとシステムだけが使えないこと、そして攻撃者が自社を装って連絡してくることが、書き足すときの注意点です。