FRL 自由研究ラボ

はじめての道具箱 — AI への頼み方

遅すぎる自動化は、場所を変える

— 直すのは速さではなく、処理する場所 —

AI に自動化の道具を作ってもらったら、ちゃんと動いたのに、何分もかかって使えなかった。そんなとき、コードの細かい直しを重ねても、あまり縮まないことがあります。遅さの原因が、処理する「場所」にあることがあるからです。この記事では、その考え方を説明します。

この記事を読むとできること

  • 「動くのに使えないほど遅い」自動化が、なぜ起きるのかが分かるようになります
  • 書き直す・量を減らす・場所を変える、の3つの手を使い分けられるようになります
  • 遅さを AI に伝えて、場所を変える案を出してもらえるようになります

想定している使い方

ブラウザで開くチャット型の AI(Gemini や ChatGPT など)にコードを書いてもらい、 それを自分の Mac に保存して動かす使い方です。この記事の操作や画面の説明は、すべて Mac を前提にしています。

  1. 遅すぎる自動化とは
  2. 遅いときの3つの手
  3. 場所を変えるときの流れ
  4. よくあるつまずき
  5. AI への伝え方
  6. 確かめ方
  7. 関連する項目

読む目安:約9分 ・ 道具箱の項目 E2(AI への頼み方)・ 図3枚

遅すぎる自動化とは何か ―― なぜ「場所を変える」という発想が要るのか

「遅すぎる自動化」とは、正しく動くのに、待ち時間が長すぎて使えない自動化のことです。直すべきなのは書き方ではなく、処理する場所であることがあります。

自動化とは、人が手でやっている繰り返しの作業を、プログラムに任せることです。たとえば、長い文書の中の決まった言葉の文字色を全部変える作業です。AI にコードを書いてもらって動かしたところ、結果は正しいのに、終わるまでに何分もかかった。これが「遅すぎる自動化」です。

つい「もっと速く書き直して」と頼みたくなりますが、遅さの原因が「どこで処理しているか」にあるときは、書き直しではあまり縮まりません。たとえば、Google ドキュメントの中で動かす GAS(Google Apps Script。Google のサービスの中で動く小さなプログラム)は、該当箇所を1か所ずつ書き換える作りになりがちです。箇所の数だけ繰り返せば、全体の時間は積み上がります。

そこで、書き方を直す前に、「処理する場所そのものを変えられないか」を考えます。文書をファイルとして手元の Mac に取り出し、全体をまとめて処理して、あとで戻す。こうすれば、1か所ずつ操作する作りから離れられます。

✕ 文書の中で、1か所ずつ操作すると 文書の中で 1か所ずつ操作 該当箇所の数 だけ繰り返す 終わるまで 10分ほど 待てなくて 使えない ○ 手元に取り出して、まとめて処理すると 文書をファイルに 書き出す Mac の中で まとめて処理 1秒ほどで 終わる 待たずに 使える 処理する場所を変えると、かかる時間が大きく変わることがあります。

図の見方:上の段は、文書の中で1か所ずつ操作する場合です。下の段は、文書をファイルとして取り出し、Mac でまとめて処理する場合です。図の「10分ほど」は、400ページの文書で、Google ドキュメントの中で動かした GAS の道具にかかった時間、「1秒ほど」は、docx(Word で使う文書ファイルの形式)に書き出して Mac で処理する別の道具での時間です。

遅いときの3つの手 ―― 直す・減らす・場所を変える

自動化が遅いときの手は、大きく3つあります。「書き方を直す」「量を減らす」「場所を変える」です。どれが効くかは、原因で決まります。

書き方を直すのは、いちばん手軽なので、最初に試す価値があります。ただし、原因が「処理する場所」だと、あまり縮まりません。量を減らすとは、文書を章ごとに分けたり、範囲を絞ったりすることです。確実に縮まりますが、全体を一度に処理できなくなるなど、使い方が変わります。場所を変えると大きく縮まることがありますが、取り出す手間と戻す手間、作り替えの手間が増えます。

迷ったら、先に「どこに時間がかかっているか」を測ります。測るコードも AI に頼めます(「AI への伝え方」の③)。

書き方を直す 手軽に試せる。原因が 場所だと、あまり縮まらない 量を減らす 文書を分ける・範囲を絞る。 確実に縮まるが使い方が変わる 場所を変える 大きく縮まることがある。 出し入れの手間は増える まず「どこに時間がかかっているか」を測り、原因に合う手を選ぶ。 どの手が合うか分からないときは、 遅さを AI に伝えて、案を出してもらう。 3つは、どれか1つを選ぶものではなく、組み合わせてもかまいません。

図の見方:上から順に、手軽で効き目に限りがある手、確実だが使い方が変わる手、大きく効くが手間が増える手です。いちばん下の箱のとおり、手を選ぶ前に、時間がかかっている場所を測ります。

たとえば私は、2026年1月に行政書士試験の過去問やテキストを Google ドキュメントに保存して学習に使っていました。文字の置換や文字色の一括変更の機能が、ワード(Microsoft の文書作成ソフト)に比べて Google ドキュメントでは物足りなかったので、Gemini に頼んで、ワードと同じような機能を GAS で作りました。動きはしましたが、変換が遅すぎて使い物になりませんでした。文書が大きかった(400ページ、28万文字)こともあり、変換に10分ほどかかりました。のちに、AI エージェント(AI が Mac を直接操作して作業を進めるやり方)を使い始めてから、Google ドキュメントを Word 形式のファイル(docx)として取り出し、Mac の中で文字色をまとめて変える別の道具を作りました。こちらの文字色の変更は、1秒ほどで済みました。

場所を変えるときの流れ ―― 取り出す・処理する・確かめる・戻す

場所を変えるといっても、やることは4つです。1つ目は、文書を手元に取り出せるファイルにすることです。Google ドキュメントなら、「ファイル」メニューの「ダウンロード」から、Word 形式(docx。Word で使う文書ファイルの形式)で書き出せます。

2つ目は、Mac の中で、プログラムが1つ目で書き出したファイルを読み込み、全体をまとめて処理することです。ここで言うプログラムは、AI が書いたコード(Python など)を自分の Mac で動かしたものです(Python などの役割は、関連する項目の A3 に説明があります)。

3つ目は、短い見本で、結果が前と同じかを確かめることです。

4つ目は、確かめてから、元の場所へ戻すことです。戻すときは、処理し終えた docx を Google ドライブにアップロードし(ドライブの「新規」→「ファイルのアップロード」)、そのファイルを右クリックして「アプリで開く」→「Google ドキュメント」で開き、「ファイル」→「Google ドキュメントとして保存」を選びます。

これでできるのは、元の文書の上書きではなく、新しい Google ドキュメントです。元の文書と入れ替えたいときは、先に元の文書の控え(バックアップ)を取っておきます(「ファイル」メニューの「コピーを作成」)。

大事なのは、元の文書は触らずに、書き出したファイルで試すことです。処理の仕組みが別物になるので、結果が前と少し違うことがあります。まず短い文書で見比べます。

取り出す 文書を docx で 書き出す 処理する Mac の中で まとめて処理 確かめる 短い見本で 前と見比べる 戻す 確かめてから、新しい 文書として戻す 試す間は、元の文書に触らない。 入れ替えるなら、先に控え(バックアップ)を取る。 出し入れの2つの手順(取り出すと戻す)が、場所を変えることで増える手間です。

図の見方:上から下へ4つの手順が並び、濃い箱の「処理する」が、時間が大きく縮む所です。いちばん下の点線の枠は、全体に共通する決まりで、試す間は元の文書に触れず、入れ替えるなら先に控え(バックアップ)を取っておきます。

よくあるつまずき

起きていることから探してください。

起きていること 原因 どうするか
動くのに、終わるまで何分もかかって使えない 1か所ずつ操作する作りで、文書が大きく、操作の回数が多い 困りごとをそのまま AI に伝え、処理する場所を変える案を出してもらいます(「AI への伝え方」の①)
「速く書き直して」と頼んでも、あまり速くならない 遅さの原因が、書き方ではなく処理する場所にあるのかもしれない 時間がかかっている所を測るコードを書いてもらい、動かして確かめ(「AI への伝え方」の③)、書き直し以外の手も比べます
場所を変えたら、結果が前と少し違った 処理の仕組みが別物になり、文字や装飾の扱いが変わった 同じ短い見本で前後を見比べ、違いを AI に伝えます(「AI への伝え方」の④)
出し入れの手間が増えて、かえって面倒になった 取り出す・戻すを、毎回手でやっている 出し入れを1つにまとめられないか、AI に相談します。時間の差が小さいなら、場所を変えない選択もあります
試したら、元の文書が崩れてしまった 書き出したファイルではなく、元の文書で試した 元の文書は触らず、書き出したファイルで試します。戻すのは結果を確かめてからにして、入れ替える前には元の文書の控え(バックアップ)も取っておきます

AI への伝え方

※ この道具箱は対話型コーディング(ブラウザの画面でチャットの AI と文章をやりとりして、コードを書いてもらうやり方)の前提です。 チャットの AI はあなたの Mac を見られないので、頼むのは「コードを書いて」、困ったら出た文字を貼って伝えます。 コツは、「遅い」という困りごとを、数字つきで伝えることです。どの作業にどれくらいかかるかが分かれば、AI は原因を絞りやすくなります。 下の文は写すものではなく、言い方の見本です。

① 遅さを伝えて、案を聞くとき

「Google ドキュメントの中で動く GAS で、文字色を一括で変える道具を作ってもらいました。動きますが、400ページほど(28万文字)の文書だと、終わるまで10分ほどかかり、使えません。困りごとは、待ち時間が長すぎることです。コードの細かい直し以外に、処理する場所を変える方法があれば、案を3つまで、それぞれの長所と短所つきで教えて。まだコードは書かないで」

② 案を選んで頼むとき(①で AI が出した案のうち、選んだ番号を入れます)

「案2の、Word 形式のファイルに書き出して、自分の Mac の中で処理する形でお願いします。元の文書は変えずに、書き出したファイルだけを処理するようにして。この案で、コードを全部書いて」

③ どこが遅いのか分からないとき

「どの作業に時間がかかっているのかを知りたいです。処理の区切りごとに、かかった秒数を表示するようにコードを直して。動かして出た文字は、あとで貼ります」

④ 場所を変えたら結果が前と違うとき

「場所を変えたら、結果が少し違います。短い見本で見比べたところ、前は:(ここに書く)、いまは:(ここに書く)でした。違いが出る理由と、前と同じ結果にする方法を教えて」

確かめ方 ―― 本当に速くなり、結果は同じか

「速くなった気がする」で終わらせず、次の3つを見ます。

  1. 1

    同じ文書で、前と後の時間を測る。スマホのストップウォッチで、始めてから終わるまでの秒数を計り、場所を変える前と後で比べます。「○分が○秒になった」と数字で言えれば確かです。差が小さければ、場所を変える価値は小さめです。

  2. 2

    短い見本で、結果が前と同じか見比べる。数ページの文書で、前の方法と新しい方法の結果を並べ、色や文字が同じかを目で確かめます。違いは「AI への伝え方」の④で伝えます。

  3. 3

    戻す前に、元の文書の無事を確かめる。元の文書を開いて、試す前と同じかを見ます。そのうえで、元の文書と入れ替えたいときは、元の文書の控え(バックアップ)を取ってから、戻す手順に進みます。