LAB 003 — GUIDE
— 外に持ち出すと決めた日から —
MacBook を買った理由は、カフェで作業したかったから。それだけでした。 席について店の Wi-Fi につないだ瞬間に、ふと思ったんです。 ——この電波、ほかに誰が聞いているんだろう。 持ち出すと決めた日から、守るものが2つに増えます。
約40分
全部やる場合
5 STEP
手順の数
1台でも
持ち出すなら要る
※ LAB 002(git をひとりで使う) までを終えている前提ですが、この記事だけ読んでも成り立ちます。 Mac を持ち歩く人なら、AI を使っていなくても同じ話です。
INTRO
家に置いた Mac 1台で作業していたころ、セキュリティのことはほとんど考えていませんでした。 自宅の Wi-Fi につながっているのは自分のコンピュータだけで、外から入ってくる入口も開けていない。 閉じた部屋の中だけで完結していたからです。
それが、MacBook を1台足した瞬間に変わりました。 守る対象が「持ち出すコンピュータそのもの」と 「家に置いてきた本体へつなぐ経路」の2つに増えます。 どちらも、家の中にいるあいだは存在しなかった心配ごとです。
ORDER
セキュリティの話でいちばん無駄が出るのは、怖がる順番が実際と合っていないときです。 「ウィルスが怖い」と言いながら、カフェで画面を丸見えにしている——これは順番が逆です。
先に順番を直しておくと、この先の手順が「なぜそれを先にやるのか」で読めるようになります。
いちばん下の2つが、いちばん誤解されています。 ウィルスは、macOS が Gatekeeper と XProtect という仕組みを最初から持っていて、 こちらが何もしなくても働いています。 外部からの攻撃は、そもそも入口(開いているポート)が無ければ入れません。 怖いのは「攻撃される」ことではなく、便利さのために自分で入口を開けてしまうことです(STEP 4)。
STEP 1 — 目安 5分(決めるだけ)
「カフェの Wi-Fi は危ない」とよく言われますが、何がどう危ないのかは あまり説明されません。実際に起きるのは3つで、それぞれ怖さの質が違います。
| 順位 | やり方 | なぜ |
|---|---|---|
| ◎ 1番 | iPhone のテザリング | 自分の回線なので、①も②も最初から起きない。これが一番強く、一番簡単 |
| ○ 2番 | VPN を通す | 店の電波は使うが、中身を包んでから流す。ただし信用できる提供元を選ぶ必要がある |
| △ 3番 | 店の Wi-Fi をそのまま使う | 鍵マークのあるサイトだけにする。銀行・パスワード変更・カード入力はしない |
「テザリングだとギガが心配」と思うかもしれませんが、 文字を書く作業の通信量は驚くほど小さいです。 重いのは動画と大きなファイルのダウンロードで、それはカフェでやらなければいいだけです。 私は結局、店の Wi-Fi をほとんど使わなくなりました。
「同意します」の画面には気をつけてください。 店の Wi-Fi につなぐと出てくる同意画面は、本物と偽物の区別がつきにくい場所です。 そこでメールアドレスやパスワードを入力しない、とだけ決めておけば十分です。
STEP 2 — 目安 5分
技術の話をひとつもしないのに、実際にいちばん起きやすいのがこれです。 特別な道具も知識も要らず、ただ見るだけで成立してしまいます。 対策も同じくらい簡単です。
トイレに立つ3分が、いちばん危ない時間です。画面を開いたまま離れると、
覗き見どころか操作されます。
⌘ + Ctrl + Q でその場ですぐロックできます。
これだけは体に覚えさせてください。
背中を壁に向けるのがいちばん効きます。 通路側・後ろが広い席は、自分からは見えない角度に何人もいます。 道具を買うより、座る場所を変えるほうが早いです。
斜めからは真っ黒に見えるフィルムです。効果は確実ですが、 正面からは普通に見えるので、②の代わりにはなりません。 画面も少し暗くなります。①②をやったうえでの上積みと考えてください。
音声入力や通話は、画面より広く届きます。 見られない対策をしても、話していたら同じです。 カフェでは声を使う作業を避ける、と決めておくと単純です。
✓ ここまでの確認:
席を立つときに手が勝手に ⌘ + Ctrl + Q を押すようになっていれば、
この STEP は身に付いています。
STEP 3 — 目安 10分
ここは3つスイッチを入れて終わりです。全部 macOS に最初から付いていて、 追加で買うものはありません。大事なのは、3つが別々の事故に対応していると知っておくことです。
| 入れるもの | 場所 |
|---|---|
| FileVault | システム設定 → プライバシーとセキュリティ → FileVault |
| ファイアウォール | システム設定 → ネットワーク → ファイアウォール |
| 自動ログインをオフ | システム設定 → ユーザとグループ → 自動ログイン |
| 「探す」をオン | システム設定 → Apple アカウント → iCloud → Mac を探す |
ターミナルに貼れば、画面を4か所開かずに確かめられます。
fdesetup status
/usr/libexec/ApplicationFirewall/socketfilterfw --getglobalstate
spctl --status
それぞれ On / enabled と出ていれば大丈夫です。
FileVault を初めて入れるときは、復旧キーが表示されるので必ず控えてください。
これを無くすと、パスワードを忘れたときに自分でも開けなくなります。
家に置きっぱなしの Mac と、持ち歩く Mac では必要度が違います。 FileVault は、据え置きなら「入れたほうがいい」程度ですが、 持ち歩くなら必須です。盗まれたコンピュータは、電源を切られたあと何時間でも調べられるからです。 この「持ち出すかどうかで判定を変える」という考え方は、後の STEP でも出てきます。
STEP 4 — 目安 15分 / この記事の山場
外から家の Mac を触りたい——そう思ったとき、多くの人が最初に調べるのが 「SSH を開ける」「画面共有を開ける」です。 動くことは動きます。ですが、これは家の玄関を作って、住所を世界に公開するやり方です。
SSH(エスエスエイチ)とは、離れたコンピュータへ文字だけの命令を送り込んで操作するための、昔からある仕組みです。 たとえると、「画面共有」が家のMacの画面ごとをカフェの手元に映すのに対して、 SSH は文字だけのやり取りで、まるでその場に座って自分でキーボードを打っているかのように命令を送れます。 レンタルサーバーを管理する人には欠かせない道具ですが、「自分が使えるようにする」ことと「誰からでも使えてしまう」ことは同じ設定の裏表です。 個人が自分の Mac を外から触りたいだけなのに、この扉を開けてしまうと、家の住所(IPアドレス)を知っている全世界の誰からも同じ扉が見えるようになります。
鍵をどれだけ強くしても、扉があること自体は隠せません。 叩かれ続けますし、扉の作りに穴が見つかれば、鍵の強さは関係なくなります。
からくりは単純です。両方のコンピュータが「自分から外へ」つなぎに行くので、 どちらも待ち受ける必要がありません。待ち受けなければ、外から見える扉はゼロのままです。 そのうえで、同じアカウントで入れたコンピュータ同士だけが互いに見えるようになります。 SSH も画面共有も、閉じたままで構いません。
家の Mac と、持ち出すコンピュータ(MacBook・iPhone)の両方に入れて、
同じアカウントでログインします。個人で使う範囲なら無料の枠で足ります。
入れ終わると、それぞれのコンピュータに 100. で始まる専用の番地が振られます。
これは自分のコンピュータ同士でしか使えない番地で、外の誰かが辿り着けるものではありません。
✓ ここまでの確認: カフェの Wi-Fi につないだ MacBook から、家の Mac の番地が見える。 それでいて、家のルータには何ひとつ穴を開けていない。
全部を外へ出す必要はありません。 私は自作アプリのうち、パスワードを保管しているものだけは意図的に外へ出していません。 家の Mac の前に座ったときしか開けない、と決めてあります。 便利にできるからといって、全部を便利にしない——これは後の記事でも繰り返し出てくる考え方です。
STEP 5 — 目安 5分 / 自分で道具を作る人だけ
AI に道具を作らせていると、画面のあるアプリ——ブラウザで開くもの——が増えてきます。 このとき、1行の書き方の違いで、カフェの他の客から自分のアプリが開けてしまいます。
AI は何も言わずに 0.0.0.0 と書くことがあります。
これは「どの入口からでも受け付ける」という意味で、同じ Wi-Fi にいる全員が対象に含まれます。
直し方は1行です。AI に頼むならこれで通じます。
このアプリの待ち受けを 0.0.0.0 から 127.0.0.1 に変えて。
理由も1行コメントで残して。
いま何が外を向いているかは、次の1行で見られます。
0.0.0.0 や * が並んでいる行が、その対象です。
lsof -nP -iTCP -sTCP:LISTEN
✓ ここまでの確認:
一覧に出てくる自分のアプリが、すべて 127.0.0.1 になっている。
Apple の機能(AirDrop や連係)が別の行で出てきますが、それは気にしなくて構いません。
SKIP
セキュリティの記事は「あれもこれも」になりがちですが、 満たしていない=危ない、ではありません。 この構成では要らないと判断したものを、理由つきで挙げておきます。 やらない判断も、記録しておけば立派な設計です。
| よく勧められるもの | やらない理由 |
|---|---|
| ステルスモード | 呼びかけに返事をしなくなるだけ。扉が閉まっているなら、返事の有無は関係ありません |
| SSH を強化する | STEP 4 の方式ならそもそも開けません。開けないものを強化する作業は発生しません |
| 市販のウィルス対策ソフト | 個人で普通に使う範囲なら、macOS が持っている仕組みで足ります。動作が重くなる副作用のほうが確実 |
| チェックリストに手で丸を付ける | 付けた瞬間から古くなります。次の節のように、開くたびに測り直す形にします |
大事なのは、やらない理由を書き残しておくことです。 書いていないと、半年後の自分が「これ、やってなかったな」と思って 良かれと思ってやり直します。 判断した事実ごと残しておけば、同じ検討を二度しなくて済みます。
MEASURE
ここまでを1回やれば、当面は安全です。問題は半年後で、 OS の更新や設定の触りなおしで、いつのまにか外れていることがあります。
なので私は、開くたびに測り直す小さな画面を自分用に作りました。 ここで面白いのは、同じ Mac でも「持ち出すかどうか」で合否の基準を変えていることです。
判定の分かれ目は、バッテリーを積んでいるかどうかだけです。 それで「このコンピュータは持ち出される」と決めています。単純ですが、外したことがありません。
TROUBLE
| 起きていること | 原因 | どうするか |
|---|---|---|
| 外から家の Mac につながらない | 家の Mac が眠っている | 据え置きの Mac はスリープしない設定にしておく。持ち出す側は眠ってよい |
| 家では開けるアプリが、外から開けない | そのアプリを外へ出す設定をしていない | 出すアプリは1つずつ指定する。一覧に足しただけでは効かず、反映の操作が要る |
| Wi-Fi の名前が「非表示」と出る | 位置情報の許可が無いと名前が伏せられる仕様 | 故障ではない。暗号化の方式だけ見れば判断できる |
| FileVault を入れたら起動が遅くなった気がする | 最初の暗号化が裏で走っている | 終われば元に戻る。電源につないで放置する |
| ファイアウォールでアプリが通信できない | そのアプリが受信を待っている | 出てきた確認で許可する。身に覚えのないものは拒否でよい |
| カフェで同意画面が出て先に進めない | 店の Wi-Fi の入口ページ | テザリングに切り替えるのが早い。その画面で個人情報を入れない |
| 自作アプリが起動しなくなった | 待ち受けの場所がぶつかっている | lsof -nP -iTCP -sTCP:LISTEN で誰が使っているか見る |
| 設定したはずが、別の Mac では外れている | 設定はコンピュータごとで、同期されない | 2台とも同じ手順を通す。これは次の記事の主題です |
FAQ
使ってもいいですが、テザリングがあるならそちらが確実に楽です。判断に迷う時間がゼロになるからです。私は「銀行とパスワード変更はカフェでやらない」とだけ決めて、あとは考えないようにしました。毎回悩む仕組みは続きません。
「強い」というより、最初から対策が組み込まれていて、こちらが何もしなくても働いているという表現が近いです。署名のないアプリを止める仕組みと、既知の悪いものを見つける仕組みが動いています。ただし自分で「開く」と押したものは通ります。結局いちばんの穴は、仕組みではなく操作する人です。
店の Wi-Fi を使うなら有効です。ただし通信の中身を全部そこに預けることになるので、提供元を選ぶ必要があります。「無料」を選ぶくらいなら、テザリングのほうが素直です。なお STEP 4 の仕組みは自分のコンピュータ同士をつなぐもので、通信を守る VPN とは目的が違います。
STEP 1〜3 と STEP 5 は、持ち出すなら1台でも全部効きます。STEP 4 だけが2台目以降の話です。そして iPhone から家の Mac を触りたくなった時点で、STEP 4 も自分の話になります。
「安全」とは言えません。言えるのは「よくある事故のうち、起きやすいものから順に塞いだ」までです。測れるのは設定が入っているかどうかまでで、その設定が本当に効いているかは別です。○が並ぶことと安全であることは違う、と自分に言い続けるのがいちばんの対策かもしれません。
NEXT
今日は STEP 2(覗き見)と STEP 3(3つのスイッチ)だけでも構いません。 この2つは10分で終わって、効き目がいちばん大きいところです。 STEP 4 は、外から家の Mac を触りたくなってからで間に合います。
⌘ + Ctrl + Q を押す癖をつけるLAB 004
2台の Mac と iPhone で持ち歩く
守りが決まったので、次は中身を持ち歩きます。 コードは GitHub、ノートは iCloud、ではAI との会話はどこを通るのか。 そして「電車の中でコードは書けるのか」—— 結論は「書けない。でも頼める」です。 iPhone を書く端末ではなく、頼む端末として使う話をします。
※ 設定画面の名称や場所は macOS の更新で変わることがあります。この記事は筆者が自分の Mac で実際に使っている構成をもとにしていますが、 安全を保証するものではありません。会社のコンピュータでは、勤め先の方針が優先されます。