LAB 004 — GUIDE
— 同期されるもの、されないもの —
カフェで作業できるようになったら、次は電車でも、と思いました。 iPhone でコードが書けたら最高だな、と。 ——結論から言うと、書けません。 でも、頼むことはできます。そして実は、そのほうが向いていました。
約50分
全部やる場合
5 STEP
手順の数
1台でも
STEP 1 は効く
※ LAB 002(git)と LAB 003(持ち出すときの守り)を 終えている前提です。特にLAB 002 の「上げてはいけないもの」は、 この記事で本当に外へ出ます。
INTRO
2台目の Mac を用意したとき、最初は「同期すればいいんでしょ」と思っていました。 ところが実際にやってみると、持ち歩きたいものは1種類ではありませんでした。 しかも、それぞれまったく別の道を通ります。
そして1つだけ、どの道も通らないものがあります。 ここに気づかないまま移動すると、向こうで作業を再開できません。 この記事でいちばん伝えたいのは、その1つの話です。
※ この記事では4つを順に片付けます。STEP 1 がコード、STEP 3 が会話、STEP 4 が画面です。ノートは LAB 001 で済んでいます。
STEP 1 — 目安 15分
その前に、1つだけ確認してください。
LAB 002 で作った
.gitignore は、いままで自分の Mac の中でしか効いていませんでした。
ここから先は、記録が本当に外へ出ます。
合言葉を撮ってしまった心当たりがあるなら、先に片付けてから進んでください。
GitHub は、git の履歴を置いておく場所です。 LAB 002 で作ったセーブポイントの積み重ねを、そのまま外に預けるイメージで構いません。 個人で使うぶんには無料で、非公開にもできます。
正直に言うと、ここは面倒な部分です。 GitHub につなぐ方法は何種類もあって、どれも一長一短で、しかも初回だけ認証の儀式があります。 ここは AI に任せるところです。そのまま貼ってください。
このフォルダを GitHub の自分のリポジトリにつないで push して。
つなぎ方は任せるので、認証で私がやることがあれば
そのつど何をすればいいか教えて。
うまくいくと、GitHub の画面に自分のファイルが並びます。 ここで必ず一度、自分の目で中身を見てください。 見られたくないものが混ざっていないか——これを確かめられる最後のタイミングです。
| いつ | やること |
|---|---|
| 作業を始める前 | 向こうの Mac の変更を取り込む(pull) |
| 作業を終えたら | 自分の変更を送る(push) |
毎回打つのは面倒なので、私はダブルクリックするだけのファイルを2つ作りました。 「始める前に押すやつ」と「終わったら押すやつ」です。 これも AI に頼めば作ってくれます。 さらに、送るほうは毎晩決まった時刻に自動で動くようにしました—— 押し忘れても、寝ているあいだに送られます。
✓ ここまでの確認: GitHub の画面に自分のファイルが見えていて、Private と表示されている。 そして、見られたくないものが1つも混ざっていない。
STEP 2 — 目安 10分 / 2台目がある人だけ
2台目でやることは、LAB 001 と同じ環境を作って、GitHub から持ってくるだけです。 むしろ大事なのは、そのあとに決めるたった1つの運用ルールのほうです。
2台目でも LAB 001 と同じ導入をしたうえで、 こう頼めば済みます。
GitHub の自分のリポジトリを、この Mac に持ってきて。
置き場所は書類フォルダの中の code にして。
2台を同時に使わない。——これだけです。 「今日は MacBook の日」と決めたら、その日は Mac mini を触らない。 技術で解こうとせず、そもそも起こさないほうが、ひとりで使う分には圧倒的に楽です。
うっかり両方触ってしまっても、作業を始める前に必ず取り込む(pull)習慣さえあれば、 ほとんどの場合は何事もなく済みます。ぶつかるのは「同じファイルの同じ行」を両方で直したときだけです。
✓ ここまでの確認: 2台目で同じフォルダが開けて、片方で作った変更が、もう片方に届く。
STEP 3 — 目安 10分 / この記事の山場
ここで私は一度つまずきました。コードは完璧に届いているのに、 向こうの Mac で作業が再開できないのです。
理由は単純でした。AI との会話が、どこにも届いていなかったからです。 会話の記録は、コードのフォルダの外に置かれています。 つまりgit の対象になっていません。
向こうで新しく話しかけても、AI は昨日の話を何ひとつ知りません。 「昨日の続きから」が通じない——これが2台持ちの一番の落とし穴です。
作業を終えるときに、この形で1枚書いておきます。 自分で書く必要はありません。AI に書かせます。
# 引き継ぎメモ
- 最終更新: 2026-09-15
- 作業したコンピュータ: MacBook
- 次に作業するコンピュータ: 家の Mac
## 今どこまでできているか
(動く状態か、途中で止まっているか)
## 次にやること
1. (具体的に。ファイル名まで書く)
2.
## 決めたこと(なぜそうしたか)
(後から迷わないように、理由も書く)
## ハマった点・未解決の問題
(試して駄目だった方法も書く)
## 動作の確かめ方
(どう動かせば確認できるか)
このうち効き目がいちばん大きいのは「ハマった点」です。 うまくいった話は後から追えますが、「それはもう試して駄目だった」は 記録に残さないと必ず二度やります。
このメモは、追記ではなく毎回まるごと書き換えます。 メモが書くのは「今」だけです。 過去の経緯は LAB 001 で作った ノート側が持っているので、二重に持つ必要がありません。 追記していくと、どこが最新か分からない長い文書になって、結局読まれなくなります。
CLAUDE.md は、
LAB 001 で作った、
「このフォルダでは AI にいつもこう振る舞ってほしい」を書いておくファイルです。
会話を始めるたびに AI が自動で読み込むので、一度書けば、毎回言い直す必要がありません。
毎回頼むのは忘れるので、ここに
「この言葉を言われたら書く」と登録してしまいます。
## 引き継ぎメモ
次のように言われたら、**指示を待たずに** 引き継ぎメモ.md を
最新の状態に書き換えてから、送る(push)ことを提案する。
- 「Mac を切り替える」「外出する」「今日はここまで」
また **作業を始めるとき、引き継ぎメモ.md があればまず読む**。
私が何も言わなくても読む。
後半の1行が効きます。向こうの Mac で開いた瞬間に、AI が勝手に事情を把握している状態になります。 こちらが「昨日はね……」と説明する必要がなくなります。
✓ ここまでの確認: 「今日はここまで」と言うと、メモが書き換わって送信まで提案される。 向こうの Mac で開くと、AI のほうから「前回はここで止まっていますね」と言ってくる。
STEP 4 — 目安 10分
ここからが iPhone の話です。 LAB 003 で入れた通り道が、ここで効きます。
できるのは「家の Mac で動いている画面を、iPhone のブラウザで開く」ことです。 アプリを作っていなければ出番はありませんが、 LAB 002 までを終えて何か作り始めていれば、 ここから景色が変わります。
やることは2つです。iPhone にも同じ通り道を入れて、同じアカウントで入る。 そして外から開きたいアプリを1つずつ指定する。 指定していないものは、外からは存在しないのと同じです。
家の Mac が眠っていると、当然つながりません。 外から使いたいなら、家に置く側はスリープしない設定にしておきます。 持ち出す側は眠って構いません。
✓ ここまでの確認: 外出先の iPhone で、家の Mac のアプリの画面が開ける。 そして出すと決めていないものは、開けない。
STEP 5 — 目安 5分 / 考え方の話
冒頭の問いに戻ります。電車の中でコードは書けるのか。 答えは変わらず「書けない」です。AI エージェントは Mac / PC の道具で、 iPhone では動きません。ファイルを触って動かす相手が、そこには無いからです。
しばらく残念に思っていたのですが、あるとき見方が変わりました。 ——実行するコンピュータなら、家にある。 電車で必要だったのは「書くこと」ではなく、思いついたことを取りこぼさないことでした。
いきなり仕組みを作る必要はありません。 Obsidian のノートを1枚「やること」に決めて、思いついたら箇条書きで足すだけで始まります。 ノートは iCloud で家の Mac にも届いているので、帰ったらこう言えば済みます。
「やること」のノートを読んで、上から順に片付けて。
1つ終わるごとに、何をしたかをノートに書き足して。
これだけで、電車で積んで、家で消化する形になります。 道具を作る必要はまだありません。
私はそのうち、積んだ作業を家の Mac が自動で1件ずつ片付ける画面を自作しました。 STEP 4 の通り道で外に出してあるので、電車から積んで、帰る頃には終わっていることがあります。 ——ただし、これは後の記事の話です。 人がいないあいだに AI を動かすなら、先に決めておくことがいくつかあります。
✓ ここまでの確認: 外出中に iPhone から「やること」を1行足せて、家の Mac でそれが読める。 書けなくても、前に進んでいる状態になっていれば十分です。
ROLES
ここまでを整理すると、3つのコンピュータは同じことをする3台ではなく、 役割の違う3台になります。 これを決めておくと、「どれを持って出るか」で悩まなくなります。
LAB 003 で 「持ち出す機体かどうかで必要な守りが変わる」と書きましたが、それがここで効いてきます。 家に置くコンピュータは守りが軽くて済み、持ち出すコンピュータは重くなる。 役割を決めることは、そのまま守りの設計にもなっています。
TROUBLE
| 起きていること | 原因 | どうするか |
|---|---|---|
| 向こうの Mac で「昨日の続き」が通じない | 会話は運ばれない | 引き継ぎメモを書いて送る(STEP 3)。これは仕様なので、諦めて運用で解く |
| 送ろうとしたら断られる | 向こうの Mac の変更がまだ手元に無い | 先に取り込む(pull)。作業前に必ず取り込む習慣で防げる |
| 同じ行を両方で直してぶつかった | 2台を同時に触った | 今回だけは AI に「どちらを残すか見せて」と頼む。次からは同時に触らない |
| 2台目で、1台目と同じ手順が通らない | つなぎ方がコンピュータごとに違うことがある | 同じ呪文をコピーしない。AI に「この Mac でつなぎ直して」と頼む |
| iPhone から家の画面が開けない | 家の Mac が眠っている | 家に置く側はスリープしない設定にする |
| 出したはずのアプリが外から見えない | 一覧に足しただけで、反映していない | 反映の操作まで実行する。家では見えるので気づきにくい |
| 向こうの Mac だけ挙動が違う | 設定はコンピュータごとで、同期されない | 設定ファイルもフォルダに入れて git に乗せ、両方に配る形にする |
| iPhone で AI エージェントを動かそうとして詰まる | 動きません | 「頼む端末」として使う(STEP 5)。相談だけならチャットのアプリでできる |
FAQ
AI エージェント——ファイルを直接読み書きして動かすタイプ——は、公式には Mac / PC 向けです。チャットで相談するだけなら iPhone でもできますが、その返事を自分の Mac のファイルに反映させる手段が iPhone にはありません。iPad でも事情は同じです。
必要ありません。STEP 1 は1台でも意味があります——Mac が壊れても履歴が残るからです。STEP 4・5 も、iPhone さえあれば2台目なしで成立します。2台目が要るのは「出先で腰を据えて書きたい」ときだけです。
非公開(Private)で作れば、自分以外には見えません。無料の範囲でできます。ただし「見えない」と「置いていい」は別です。合言葉の類は、非公開でも置かないのが原則です(LAB 002)。
技術的に無理やり運ぶ方法はありますが、おすすめしません。会話は長すぎて、要点が薄まっているからです。実際にやってみると、AI に読ませるべきなのは全文ではなく「いまどこで、次に何をするか」の数行だけでした。詰め替えたほうが、結果的に早く再開できます。
押すだけのファイルを2つ作って、送るほうは毎晩自動で動かすのが効きました。人の意志に頼る部分を減らすほど続きます。この考え方は、この先の記事でずっと繰り返されます。
NEXT
まず STEP 1(GitHub に置く)だけでも構いません。 2台目が無くても「Mac が壊れても残る」という意味があります。 STEP 3(引き継ぎメモ)は、2台目を使い始めた日にやってください。 これを知らずに移動すると、必ず一度は詰まります。
LAB 005(準備中)
最初の道具を1つ作る
ここまでの5本は、全部土台づくりでした。 道具も、戻せる仕組みも、守りも、持ち歩く道もそろったので、 次はいよいよ何かを作ります。 最大の壁は技術ではなく「何を作るか」です。 答えは「自分が毎日困っていること、1つだけ」。 そして育てない勇気の話をします。
※ サービスの画面・名称・無料の範囲は変わることがあります。この記事は筆者が実際に使っている構成をもとにしていますが、動作を保証するものではありません。 仕事のコードを扱う場合は、勤め先の方針が優先されます。