FRL 自由研究ラボ

LAB 005 — GUIDE

最初の道具を1つ作る

— 大きく作らない、が一番の近道 —

ここまでの5本は、全部土台づくりでした。道具を入れ、戻せる仕組みを作り、 持ち出す守りを固め、複数の端末をつなげました。 ——次はいよいよ、何かを作ります。 最大の壁は技術ではありません。「何を作るか」です。

約30分

全部やる場合

4 STEP

手順の数

1つだけ

足すのはこれだけ

この記事の道順

  1. はじめに — なぜ「何を作るか」が最大の壁なのか
  2. STEP 1 — 毎日の困りごとを書き出す
  3. STEP 2 — 1つに絞る
  4. STEP 3 — 仕様書を書かず、会話で頼む
  5. STEP 4 — 育てない勇気
  6. つまずき集(症状から引く)
  7. よくある質問
  8. 次の一歩

LAB 000LAB 004 を終えている前提です。特にLAB 000 の「書く・動かす・読む・直す」ループを 使う場面が出てきます。

INTRO

道具は揃った。あとは何を作るか、だけです

ここまでの5本で、環境は一通り整いました。 AI に頼む方法を知り、壊れても戻せる仕組みを作り、外に持ち出しても大丈夫な守りを固め、 複数の端末をつなげました。つまずく理由が、もう技術には残っていません。

それなのに、ここで止まる人がいちばん多い場所でもあります。 理由は単純で、「何を作ればいいか分からない」からです。 これは経験の差ではありません。誰もが最初に通る壁で、 越え方も決まっています。

ここまでの5本と、この記事の位置 LAB 000 コーディングとは何か LAB 001 Claude Code と Obsidian LAB 002 戻れるようにする(git) LAB 003 持ち出す守り LAB 004 複数端末で持ち歩く = 土台(5本) ① 何かを、実際に作る この記事はここです 技術の壁は、もう無い 残っているのは「何を」だけ 土台の5本は、どれも「作るための準備」でした。この記事から先が「作る」です。
01

STEP 1 — 目安 10分

毎日の困りごとを書き出す

「何か作りたい」と考え始めると、たいてい大きすぎるものを思いつきます。 家計簿アプリ、タスク管理ツール、SNS——どれも世の中にすでにあり、 1人で作るには大きすぎます。

発想を逆にします。「作りたいもの」ではなく「困っていること」から探します。 困りごとは、あなたがすでに毎日体験しているので、探す必要すらありません。 思い出すだけです。

✕ 「作りたいもの」から考える 「家計簿アプリを作ろう」 壮大・終わりが見えない・大抵挫折する ○ 「困りごと」から考える 「レシートの写真を撮るたび 分類するのが面倒」 レシートを撮ると自動で仕分けるだけの道具 小さい・終わりが見える・実際に使う

やることは1つだけです。AI に頼んで、一緒に思い出してもらいます。 自分1人で考えるより、対話にした方が数が出ます。

ここ1週間で「面倒だな」「毎回同じことをしているな」と
思った場面を、一緒に思い出したい。
質問を1つずつして、私が答える形で進めて。
最後に、出てきたものを箇条書きにまとめて。

質問の例:「毎朝いちばん最初にやることは?」「先週、同じ作業を2回以上やったことは?」 「『あとでやる』と思って結局やらなかったことは?」——大きさは気にしなくて構いません。 次の STEP で絞ります。

✓ ここまでの確認: 「面倒だと思ったこと」が5〜10個、箇条書きで手元にある。 この時点では、実現できるかどうかは考えなくて大丈夫です。

02

STEP 2 — 目安 5分

1つに絞る

箇条書きができたら、1つだけ選びます。 全部作りたくなりますが、同時に2つ作り始めると、たいてい両方とも終わりません。 選び方には、目安が3つあります。

① 週に3回以上起きる

月に1回しか起きないことは、道具にしても元が取れません。作る手間の方が高くつきます。

② 1文で説明できる

「〜すると、〜になる」と一息で言えないものは、 まだ大きすぎます。言えるまで小さくします。

③ 使うのは自分だけでいい

人に見せる・公開するは後回しにします。最初の1つは、自分専用で十分です。

出てきた候補を、3つのふるいにかける 候補A 候補B 候補C 候補D ① 週3回以上 ② 1文で言える ③ 自分専用でいい 候補A これに決定

全部に○が付かなくても構いません。 3つとも満たす候補が無ければ、いちばん惜しいものを選んでください。 完璧な候補を探すより、1つ選んで先に進む方が早く形になります。 選び直しは、いつでもできます。

03

STEP 3 — 目安 10分

仕様書を書かず、会話で頼む

決まったら、いよいよ AI に頼みます。ここで身構える必要はありません。 「仕様書」のような形に整える必要はなく、 困っている場面をそのまま話せば十分です。

これは LAB 000 で説明した エージェントに任せるやり方そのものです。 あなたが担当するのは「何を解決したいか」で、 文法や実装の細かい判断は AI に任せます。

✕ 仕様書のように整えようとする ・入力:レシート画像(JPEG) ・処理:OCRで金額と店名を抽出 ・出力:カテゴリ別CSV ・エラー処理:… 書いている間に、やる気が尽きる ○ 場面をそのまま話す 「レシートを撮ったら、金額と店名を 自動で読み取ってメモに残したい。 まずは動くものを見せて」 細部は AI が判断し、動くものが先に出る 迷ったところだけ、あとから会話で直します。最初から完璧に説明しようとしなくて大丈夫です。

実際に貼る文は、こんな短さで足ります。

こういうことに困っている:レシートを撮るたび、
自分で金額と店名をメモに書き写していて面倒。

これを解決する小さな道具を作って。
まずは動くものを見せて。細かい仕様は、
動かしながら一緒に決めていきたい。

AI が作り、動かし、結果を見せてきます。ここからは LAB 000 のループ (書く・動かす・読む・直す)が回るのを、隣で見ながら試す番です。 「思っていたのと違う」と感じたら、そのまま言葉にして伝えます。

動いた。でも店名がうまく読み取れないことがある。
レシートの上の方じゃなくて、金額の近くに
店名が書いてある形式も多いので、そこも見て。

✓ ここまでの確認: 自分の Mac の中で、実際にその道具が動いている。 「動いた」で終わらせず、実際の場面(本物のレシート)で1回試してください。 動いた ≠ 使えると、LAB 000 でも触れた通りです。

04

STEP 4 — 目安 5分 / この記事の山場

育てない勇気

道具が動くと、必ず欲が出ます。「ついでにグラフも出せたら」「他の家族も使えたら」 「スマホからも見られたら」——1つずつはどれも良いアイデアに見えます。

ここで踏みとどまれるかが、最初の1個が完成するかどうかの分かれ目です。 機能が増えるほど、直すところも増え、壊れる場所も増えます。 「育てない」と決めることも、立派な設計です。

✕ 思いつくたびに足す 最初の道具 + グラフ表示 + 家族と共有 + スマホ対応(ここで力尽きる) 直すところが増え続け、完成しない ○ 1つに決めて、足さない 最初の道具 これで完成、と決める 今日から毎日使う 壊れる場所が増えないので 直す手間もほとんど無い

思いついたら、消さずに「あとで」に置く

足したい気持ちを無理に消す必要はありません。思いついたことは、 Obsidian のノートに1行書き足すだけにして、その場では作りません。 本当に必要な機能なら、何日か経ってもまた欲しくなります。 一度も思い出さなかった機能は、そもそも要らなかった機能です。

「いつかやること」というノートに、今思いついた機能を
1行だけ書き足して。いま作るのではなく、
あとで見返すためのメモとして残したい。

これは実際に効きます。 動画を切って繋げるだけの道具、画面を2つだけに絞ったゲーム—— 機能を意図的に2つか3つに絞った道具ほど、結局は長く使い続けています。 「足りない」と感じることより、「複雑すぎて触るのが億劫になる」ことの方が、実際には多く起こります。

TROUBLE

つまずき集(症状から引く)

起きていること 原因 どうするか
困りごとが1つも出てこない 慣れすぎて「面倒」だと気づいていない 家族や同僚に「何が面倒?」と聞いてみる。他人の視点だと出やすい
候補がどれも大きすぎる 「アプリ」を作ろうとしている 「作業を1つ減らす」だけに絞る。名前を付けられるほど大きくしない
思ったものと違うものができた 最初の説明が曖昧だった 直すのではなく、違いを言葉にして伝え直す(STEP 3)
完成する前に飽きてしまった 機能を足しすぎて大きくなった STEP 4 に戻り、今ある機能だけで一度「完成」と決める
作ったのに、1回しか使っていない STEP 2 の「週3回以上」を満たしていなかった 気にしなくてよい。次はその条件で選び直す。1個目はそのために作った練習でもある
AI が勝手に機能を増やしてくる AI は「良かれと思って」広げがち 「今はそれを足さないで。まず動くものを見せて」とはっきり伝える

FAQ

よくある質問

プログラミングの知識が無くても作れますか?

作れます。LAB 000 で触れた通り、文法は AI が担当します。あなたが持ち込むのは「何に困っているか」で、それはあなた自身がいちばん詳しい分野です。

どれくらいの時間がかかりますか?

道具の大きさによりますが、STEP 2 の目安(1文で言えること)を守れば、最初の版は1〜2時間で動くことが多いです。動かないまま何日も悩んでいるなら、大きすぎるサインです。

失敗したら、どうなりますか?

失敗しても、LAB 002 で作った仕組みのおかげで、いつでも元に戻せます。気軽に壊してやり直して構いません。それがこの仕組みを先に作っておいた理由です。

人に見せてもいいものにしたいのですが

その気持ちは、いったん脇に置いてください。最初の1個は自分専用と割り切ると、見た目や汎用性に悩む時間が丸ごと減ります。人に見せたくなるのは、育ってからで十分です。

2個目、3個目も同じ手順でいいですか?

はい。STEP 1〜4 は、いくつ作っても繰り返し使える手順です。数が増えたときの悩みは別にあります——それは次の記事の話です。

NEXT

次の一歩

まず1つ、今日困ったことを AI に話しかけてみてください。 完成させることより、「困りごとから道具が生まれる」という感覚を1回体験することが目的です。

  • 候補は5〜10個出してから、1つに絞る
  • 仕様書ではなく、困っている場面をそのまま話す
  • 思いついた追加機能は、作らずにノートへ書き足す

LAB 006(準備中)

AIの「できました」を信じない

道具を1つ作ると、次に困るのは「本当に直っているか」です。 AI は「できました」とよく言いますが、それを鵜呑みにしない仕組みを作ります。 合否を人ではなく、機械に決めさせる話です。

※ 作る道具の内容や難易度によって、かかる時間は変わります。この記事は筆者が実際に試している進め方をもとにしていますが、結果を保証するものではありません。